共通して感じた「利他」。松居和『ママがいい!』/中島岳志『思いがけず利他』/斉藤徹『だから僕たちは、組織を変えていける』



2022年の年明け、「やはり読んでおきたい」と入手した3冊。
その根底に、共通して感じたのは「利他」。時代の共通項を感じます。

松居和『ママがいい!』

衝撃的ながらどこか頷いてしまう帯「幼児の扱いが国じゅうで粗雑になっている」。タイトルを見た瞬間は「ママがいい、ね……パパはどうした」と違和感もありましたが、内容を読んだら「まさに、これからがパパだよ」腑に落ちるタイトルでした。

「人間は環境や社会の仕組みに慣れる」

現在、日本は子どもを「女性が社会進出するための壁」として取り扱い(育児を親から切り離す……保育のサービス化・長時間化・無免許化)、その上で「子ども(壁)をたくさん産んで」とのたまう。透けて見える本音は社会の価値観に投影され、さらに少子化は進んでいる。

昔から多くの保育士が、初めて園に預けられた子どもたちの「ママがいい!」と泣く姿を見るといいます。本来は慣れるべきでない貴重な泣き声、ママを信頼しているからこその大切な声。その事実を抱きしめた上で、保育の必要な親子を支えるのが保育士だった、と。慣れればいいわけではない、泣かないことが良いことではない。だけどいつからか「慣れさせる」「泣かせない」という価値観が主軸になっていると指摘します。

0歳から預ければ「ママがいい!」という言葉さえ存在しなくなる。大切なもの、人間が生きるきっかけのようなものが、一つ一つ消えてゆく。

「話しかけてもらえない、抱っこされない」状況下で育った子どもたちがある一定の割合を越えた時に、負の連鎖が一気に始まる。 

子育ては「世界は信じることができるか」の答えを差し出す

著者の松居和さんは「親の一日保育者体験」を推進されています。特に父親は必ず「年1度(計3回)」と。すると3回目ぐらいの体験で、他の子どもたちの成長に目が止まり、他の子どもたちも父親の存在を喜んでくれるようになるそうです。

その時、父親の心の中に、自分はひょっとしてほかの子たちにも責任があるかもしれない、という感覚が芽生える。

他人の幸せを自分の幸せと感じ、幼児と一緒にいるだけで幸せと気づいた時、人は社会との見えない絆を感じ、自分の存在に自信がもてるようになる。

「自分が幸せであればいい」だけでなく、「自分の家族が幸せであればいい」だけでなく、「幸せであれ」と感じられる絆の範囲が広がっていく……

だれかを頼ろうとしなければ、信頼関係は生まれない。信じようとしなければ、絆は育たない。生きる力は、自立することではない。信頼の連鎖に身を置くこと。

本質的に、子育ては親が自分を見つめる作業でもある。子育てによって引き出されていく自分自身の「利他の人間性」……

だれかを頼り、頼られること。信頼を連鎖していく。

共感の嵐でした。私は、子育ての中で自分が露わになり再構築されていく体感を「子育て坐禅」と総称していますが、これまで取り組んだことも、里親をしたいことも、改めて全部つながりました(書籍の中では、国の里親政策に対する懸念にもページが割かれています)。

今後の提言「子育てを男性に戻そう。父親を父親らしく、子育てに喜びを感じ、家族に愛着を持てるように」についても、同じ意見です。国の政策は横におくと、今Twitterなどで見える父親のリアルな声に未来を感じています。


中島岳志『思いがけず利他』

「そもそも利他とは何だろうか?」

世界中で注目されている「利他」というキーワードを真剣に解きほぐす本書。

ジャック・アタリの提唱する「合理的利他主義」や立川談志の落語、親鸞の教行信証などを題材に、考察はぐんぐん進んでいきます。

「なるほど!」「そうか!」 頭のどこかで分かっていたはずなのに、目から鱗が止まらない心地よさ。ぜひ多くの方に触れてほしいです。読みやすいですよ~

自分がどうしようもない人間であると認識した瞬間に、祈るほかしかない瞬間に、人は他者に親身にできる、世界を愛することができる。

いつどこで発動するか分からない「利他」。

私たちは偶然性の中を、意味づけし合いながら漂って生きている……

今ここにいること自体が「利他」の恩恵の輪の中なのだから。


斉藤徹『だから僕たちは、組織を変えていける』

「どうやら活発なビジネスマンに人気の様子、押さえておこう」と入手した一冊。マニアックな書物に走りがちな自分を調整する目的もありました。

大量生産・大量販売・大量商品の社会が終わりつつある現代。

大規模なヒエラルキー管理の組織体制、古い価値観を刷新していく必要があると、さまざまな切り口と分かりやすいイラストで丁寧に説明してくれます。

キーワードは「学習する組織」「共感する組織」「自走する組織」

デジタルネイティブたちの価値観は「個人主義でがんばって評価されたい」から「周囲とのつながりと持続が第一」へ……というあたり、Youtuberを見ていてもすごく頷きます。

こういった組織に必要なのは、突き詰めると

・自分に正直であること(自分を愛せていること)
・一緒にいるメンバーを信頼していること
・自分も相手も尊重しながら対話をつづけること

なのだろうと感じました。

つまり、子育てで大切と言われる「自己肯定感」、そして「利他」

ニュージェネレーションは社会変化の中でこういう価値観を自然に身にまとっていくのでしょう。本を読んで「こうしなければいけないのか」と感じる層とは、どうしても価値観の隔たりがあるだろうな、そんなことも思いました(それでも知ることは大事です!)。

すべての子どもたちが、自分の好奇心にまっすぐ走っていける社会になりますように。

知人との会話:
「新卒で就職したすべての子に突然『自走していこ!』って無理じゃないか?
「つまり、就職前の、教育部分ですよね
「好奇心があれば、人は自分で勝手に学ぶ。すると、仕事を選べる。自走できる」
「とにかく勉強、良い学校に行け、だけの教育では、こういった組織をつくる人間の条件を満たせないということだよね。誰かの提示した道を歩いているだけでは『自分を尊重できていない』『正直に話せない』だしね」
「教育の見直しが肝なんですよ……」

ove / Nonfiction (Official Lyric Video )


私が私であるべき意味を
私が私を愛する意味を

関連ソング

0 件のコメント:

コメントを投稿